最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)3760号 判決 1953年12月15日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人松村常太郎の上告趣意は末尾添付のとおりである。
趣意第一点について。
所論は法令違反の主張であって刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(本件記事は論旨のいうとおり被害者の氏名こそ明示してないが、第一審判決挙示の証拠を綜合するとそれが森脇義夫に関して為されたものであることが容易にわかる場合であることが認められる。だから該記事は被害者の特定に欠くるところはないというべきである。また記録を調べても、被害者の朝令暮改的な政治的無節操振りが真実であるとの証明があったものとは認められない。仮りにその証明があったとしても、これを結びつけて、ことさらに「肉体的な片手落は精神的の片手落に通ずるとか、ヌエ的町議がある。」等と凡そ公務と何等の関係のないことを執筆掲載することは身体的不具者である被害者を公然と誹謗するものであると謂うべきである。従って本件につき名誉毀損罪の成立を認めた原判決は正当であって、論旨は採るを得ない。)
趣意第二点について。
しかし、本件は、被告人が被害者の政治的無節操振りを、ことさらに身体的な不具の事実と結びつけて誹謗した場合であると認められること、既に、論旨第一点につき説示したとおりである。そして原判決も本件を、被告人が専ら公益上の立場から抽象的に、公人としての態度に警告を加えたに止まるものと判断しているのでないことはその判文上明らかである。従って所論違憲の主張は前提を欠くものであって採用の限りでない。
なお記録を精査するも、本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由ありとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)